「凍りの掌」を読む。

記憶としてはかなり風化しつつある太平洋戦争後のシベリア抑留について描いたマンガ。戦争をシンプルで可愛らしい絵柄でもって淡々とした日常を描く演出がこうの史代作品っぽい雰囲気。著者の父が抑留経験者で、聴きとり調査を基に執筆したとのこと。実質は奴隷労働に従事させられていたのに戦後は捕虜としての扱いを受けておらず賠償責任がうやむやになっていたり、結構外交としても問題だらけらしい。
それにしても、戦争や紛争という自分の意志と別の大きな力で自分の人生を左右される経験がないという今の自分ってめちゃくちゃラッキーだよなぁと改めて思わされる。自分の人生のイベントって仕事にしても結婚にしてもかなり自由意志で決定可能だけど、それがかなわない時代や国があるんだよなぁと。
後、本作を読んで初耳だったのはソ連が抑留者を赤化する政策を取っていたこと。たしかに敗戦国日本をアメリカ的資本主義陣営に取りこまれないように社会主義化するというのは理にかなってるんだけど、赤化した者を食料や給料の点で厚遇してそうでないものを冷遇したり、日本人の中でも高い権力を持つ者を糾弾・密告したりと、歌謡曲の代わりに革命歌を歌うように強制されたり、その後の革マル派みたいな総括文化が芽吹き始めていたらしい。やだなー。