「NEW R&B school」を読む。

前作がD'angeloを軸にしていたのに対して、本作ではMJを軸に前作を補完するような作りになっている。また、MJだけじゃなく広くジャクソンファミリーにも紙面を割いており、特にJanetについてはmichealと同じ程度まで掘り下げている。基本は1アーティスト1アルバムという紹介方式で、アルバムは一番micheal色が強いものをセレクトされている。著者二人の意向で、michealの生きてきたアメリカ芸能界のゴシップ的な側面をごっそり排除しており、純粋に彼自身の全アルバムの音楽的な分析と、現代に至るまでの彼の音楽の系譜をたどることができる貴重な本となっている。
正直言ってD'angelo編ほど知らないアーティストが少なくて、それほど勉強にはならなかったんだけど、数人興味深いアーティストを知ることが出来て良かった。なかでも、このamaliaというアーティストはなかなか衝撃度高かった。あんまmicheal色強くないけど、いびつなビートとフューチャーファンクっぽい作りが最高。

あと、このmistaというグループも良かった。ボーイズグループとは思えないディープさ。

あと、去年の衝撃だったdornikはやはりいいなぁと再認識した。michealっぽさとprinceっぽさとsadeっぽさと折衷したような良さがあり、聴いていてめちゃくちゃ気持ち良い。

「芸能人はなぜ干されるのか」を読む。

芸能人はなぜ干されるのか?

芸能人はなぜ干されるのか?

最近増補版が出ていて気になって読んでみた。面白い。内部者による暴露!みたいな軽薄で煽情的な内容や、変な思い込みに基づく陰謀論めいた文章では全くなく、緻密な取材や調査に基づいた非常に理知的な文章で安心感がある。戦前の芸能界から歴史を紐解き、映画(五社協定というカルテルなど)からテレビへと娯楽が変容していく過程での業界勢力図の再編を解説し、更にはエンターテイメント大国アメリカやお隣韓国の芸能界事情との比較も通じて、現代日本に残された、非常に前近代的で魔境のような芸能界の闇に光を指す良書だ。他の業種ではありえない、「干される」という現象がどのような産業構造によって引き起こされているかをまとめる。
もともと興業の世界が地元のやくざの協力なしに立ち行かないというのは前提知識として知ってはいるけど、現代に至ってもまだまだその影は強いのだなぁという感じ。悪名高いバーニングの周防は時代に逆行するように暴力を盾に自分の帝国を拡張してきたらしい。それとは逆に早稲田出身でクリーンでシステマチックな独占経営を進めていたナベプロの渡辺と対照的で面白い。その他、ジャニーズや吉本興業など、自社から独立しようとする人間を業界に「あいつに仕事をふるな」と通達して芸能界から事実上追放し、さながら「見せしめ」のようにして自社タレントに逆らえないように圧力をかけたり、自社タレントの番組からの引き上げなどを理由にして徹底的に他社の参入を排除してきた悪行が個別具体例をもとに詳細に記されている。また、音事協を中心としたレコード会社によるパワーゲームの実態もなかなか醜悪で読んでいて気色悪くなるほどだ。そして逆に、泉ピン子の例など、パワーのあるタレントが弱小プロダクションに所属した形になるとタレントがプロダクションを食い物にする例もあるということも初めて知った。
また、本書の中で幾度となく参考図書として言及されている竹中労という人物についても気になった。かなり反権力思考の強そうなイメージを持ったが、この人の本もいずれ読んでみたいなぁと思う。