目の見えない人は世界をどう見ているのか

伊藤亜紗史の著作2冊目。これも柔らかい文体で凄く良かった。難しい理論や厳密なデータはほとんど出てこない。基本は著者と交流がある視覚障碍者の方々と接する中で味わった色々な知覚の面白さを紹介するような形で語られる。
・「美学とは、芸術や感性的な認識について哲学的に探究する学問です。もっと平たく言えば、言葉にしにくいものを言葉で解明していこう、という学問です。」
・「四本脚の椅子と三本脚の椅子の違いのようなものです。もともと脚が4本ある椅子から一本取ってしまったら、その椅子は傾いてしまいます。壊れた、不完全な椅子です。でも、そもそも三本の脚で立っている椅子もある。脚の位置を変えれば、三本でも立てるのです。」
・「「意味」とは、「情報」が具体的な文脈に置かれたとき生まれるものなのです」
・障害者と健常者との関係について 「だんだん見えなくなってくると、みんながぼくのことを大事に扱うようになって、よそよそしい感じになって、とてもショックでした」(中略)福祉的な態度とは、「サポートしなければいけない」という緊張感であり、それがまさに見える人と見えない人の関係を「しばる」のです。」
「大岡山はやっぱり「山」なんですね」物理的に同じ場所にいても、視覚障害者がキャッチできる情報が健常者と異なるということ。逆にラーメン屋の看板を観てお腹がすくように、「視覚的な刺激によって人の中に欲望が作られていき、気がつけば「そのような欲望を抱えた人」になっています」「「意識にのぼってこない情報を追わない」という考えに至るまでの2,3年は、難波さんにとって、視覚を持たない新しい体がとらえる「意味」を、納得して受け入れるまでの期間だったという期間だったと言うことができるでしょう」
・「2006年に厚生労働省が行った調査によれば、日本の視覚障害者の点字識字率は、12.6%」
視覚障害者は話し上手な人が多い。友達の輪に入りたい時に話術で人を笑わせることが求められる。そのため、ラジオの語りを勉強したりする人もいる。