「ハンガー」を観る。

HUNGER/ハンガー 静かなる抵抗 [DVD]

HUNGER/ハンガー 静かなる抵抗 [DVD]

かなり自分の好みとかぶる部分が多くて面白かった。スティーブ・マックイーン監督(有名俳優とかぶってしまってややこしいけど)、一気に自分の中で気になる監督になった。ほぼBGMなしの最小限のセリフによるドキュメンタリー的な作り。ヒリヒリと痛い空気感が最高。1981年のイギリスを舞台に、実在したボビー・サンズという刑務所に投獄されたIRAの闘士がイギリス政府に対して政治犯としての扱いを求めるため、ハンガーストライキを起こして死にゆく様を描いた映画。
多分、ケン・ローチとかが同じ素材で監督をしたら、当時の社会情勢だったりストライキに対するイギリス政府の反応をバランス良く描いて事件の背景を浮き彫りにするような作品にしそうだけど、本作ではそういう要素はほとんどない。舞台は刑務所の中のみで(回想シーンとして幼少時の主人公が一瞬出てくる場面はあるけど)、徹底してストライキをする主人公の視点、収監される政治犯と彼らを痛めつける刑務官の視点で構成されており、糞便の饐えた悪臭と血と寒々しさが濃厚に伝わってくるような感覚的な映画だ。マイケル・ファスベンダーの骨と皮だけになった病的な体と狂気に満ちた表情に観客は映画から目が離せなくなってしまう。痺れる。
正直に言って、闘争の手段として主人公のとった行動が評価できるかというと微妙だ。観ていて頭をよぎったのは浅間山荘の事件。言わずと知れた、閉ざされた空間で目的が達成されないわだかまりを自分たちの精神的な未熟さにあるとして傷つけあい、自滅していった若者たちだ。あるいは、妄想に取りつかれたタクシー・ドライバーのデニーロのような。
確かに彼の行動は結果としてイギリス政府を動かすきっかけになったかもしれないが、闘争に勝利したといえるのだろうか。彼は勿論ことの顛末を見届けることなく、「先々の希望のため」に世を去っていった。合理的な人間であれば、というか平和な環境で生きる人間からしたら「とりあえず刑務所内で得られる食事は摂り、筋トレでもして体を鍛えて自分の精神を近郊に保つことが先決なんじゃないか」とか要らんおせっかいをすると思うけど、彼にそういった声は届かなかった。ストライキに反対する牧師との長回しの面会場面は見どころ。
スティーブ・マックイーン監督作、他もチェックして観ようと思う。