「オービタル・クラウド」を読む。

アンダーグラウンドマーケット」が面白かった藤井 太洋氏の大作。期待通り超面白かった。日本SF大賞受賞。スペーステロ計画を目論む北朝鮮に亡命した元日本のJAXA職員で天才的ハッカーに対し、情報から隔離されたイランのテヘランで研究を続ける天才天文学者と、日本で流れ星の発生を予報するサイトのWEB運営者と、日本のJAXAアメリカのCIAなど多様な関係者が総力で戦うグローバルな物語。イーロン・マスクっぽい投資家の親子が物語の縦軸として宇宙の面白さを紹介していたり、宇宙に雲のように広がるテザーや巨大天体望遠鏡など、話題性や画面的にも凄く映えるので、映画化したらすごく面白いと思う。物語のテンポもよく、普通の民間人だった日本人のWEB運営者があれよと言う間に世界の危機を救う壮大な話に繋がっていくところとかもスリリングで良い。序盤からテロの先導者が登場するので、ミステリー的な要素は薄いんだけど、後々になって、先導者が序盤に打った布石がこんなところで利いてるのか、みたいな面白さもある。物語自体の骨太さと専門知識の深さでは高野和明「ジェノサイド」クラスだと思う。
著者はもともとIT畑の人なのでシステムやセキュリティとかに詳しいのは分かるけど、本作の肝になる天文学とか航空力学とかまで、少なくとも素人からすると無茶苦茶緻密なディテールで宇宙からの危機を描けているのは恐れ入る。どんな生活してたらこんな知識つくんだよ、という感じ。エンジニアや研究者たちの、情報において北朝鮮やイランなどの「持たざる国」と日本やアメリカなどの「持てる国」の葛藤がドラマの軸になっているのも、Linuxとかネットのオープンソース思考とかと類似していて示唆的で面白かった。あくまでビジネス上の関係というヒーローとヒロインの関係も何か慎ましい。エピローグも爽やかで後味も良い。名作。