過去のない男」を観る。

「街のあかり」に続いてカウリスマキ監督作。「街のあかり」より面白かった。というか救いがあって救いがあったり、主人公への感情移入がしやすいからかもしれないけど、鑑賞後の感触が良かった。
暴漢に襲われて記憶をなくした中年男が、川のほとりに捨てられていたところを貧しい家族に拾われて、少しずつ働き始めながら、恋に仕事に奮闘していたところ、元の家族からの連絡があって嫌々ながら会ってみて…という物語。

相変わらず世界観はカウリスマキらしく、滑稽なほど役者のセリフや表情・動きは少なくドラマ性も薄く、静かに時間は進む。主人公の男のくゆらせる煙草の煙のようにゆっくりと話は進んでいくが、その時間が嫌いな人には合わないだろう。最終的に主人公は元の家庭を捨てて新しく築いた関係を選択するが、それが必然と思えるくらい人々との交流が素敵なのだ。
拾ってきたジュークボックスを自宅の倉庫に持ってきて、救世軍のバックバンドにロックを伝授したり、気になる女性を誘うためにぶっきらぼうで口の悪い警官から車を借りてキノコ採りデートに誘ったり、その警官に無理やり犬(ハンニバル(人食い犬)なんて可哀想な名前付けられてるが、可愛い女の子犬なのだ)の世話を押し付けられて、ちゃんと飼い慣らしてしまったり、男の無骨な外見にあわずキュートな行動が萌える。
個人的に好きなシーンは、女とのファーストキスシーン。

男「顔に何かついてるぞ」
女「?」
→キス。
女「ウソをついたのね」
男「すまない」

この簡素で恥ずかしいやり取りを50代くらいの男女がやるのだ。萌え。