トゥモロー・ワールド」を観る。

とにかく「ゼロ・グラビティ」に衝撃を受けたので、アルフォンソ・キュアロン作品に興味を持って本作を観てみた。やはり、素晴らしい。
原作はP・D・ジャイムズ「人類の子供たち」という作品で、生殖能力を失った人類が生きる近未来のイギリスのロンドンが舞台。英国へ移民してきた人々を軍や警察が徹底的な弾圧を加えることで治安を維持していたが、社会全体が殺伐とした抑圧されたものになっていた。そんな中で数十年ぶりに妊娠したのはなんと不法移民の女性であり、彼女を守るために紛争するテロリスト集団と政府側の抗争を描く物語。
正直言って、SF作品としてはそこまで筋の通った話ではないと思う。生殖能力を失ったことで社会がどのように変わったかという描写が弱いし、説明不足感がぬぐえない。結局妊娠した女性にしたってなぜ妊娠できたのか説明されないし。ただ、それを補って余りある映像の力で魅せられる。全体的にどんよりしたロンドンの空と、移民たちが暮らす退廃的なスラムや戦場の描写が地続きで重苦しい雰囲気を作っており印象的。本作では特徴的な長回しのシーンがいくつかあるのだが、どうやらCGで分割されたカットを違和感なくつなげているらしい。冒頭のシーンからして凄くて、カフェのテレビのニュースを観ていた主人公がパンか何かを買って店を出てしばらく歩くと店が爆破される、という2分ほどのシーンを途切れることなく描写しており、この出だしだけでうまく世界観を描写しており、作品に引き込まれる。そして何より圧巻は戦闘シーン。「プライベート・ライアン」の冒頭に匹敵するような長回しによる絶望的な内戦のシーンを緊張感を持続したまま取っており、息をするのも忘れそうになるくらい。次々に死にゆく人と無秩序に放たれる銃弾と爆発。生々しい傷を晒しながらあえぐ人を尻目に廃墟のような建物を主人公のバックショットで追いながら赤ちゃんの泣き声を頼りに妊婦を探すシーンは映画史にも残るような素晴らしい場面だと思う。これを観るだけでも本作を観る価値がある。