潜水服は蝶の夢を見る」を観る。

潜水服は蝶の夢を見る [DVD]

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正直言って、観る前は面白がれるかどうかかなり怪しんでいた。図書館で見つけたっていうのもあるけど、障碍者お涙頂戴ものとか、余命わずか号泣ものみたいなチープで泣きたい人が泣くため(ヌくため)に観るような映画(図書館にはなぜかこの手の映画が多い)なんじゃなかろうかという危惧があったのだ。だけど、杞憂だった。重度の脳卒中により閉じ込め症候群(ロックトイン・シンドローム)という認知器官は正常なまま体の自由が瞬きしかできない男の閉鎖的で濃密な世界を一人称で描いたインパクトある映画。
冒頭からして旨い演出。うっすらと目を開くと、うすぼけた視界に何やら医師と自分が横たわるベッドが見え、遠くからこだまするような声で呼びかけられているというシーンから始まる。主人公のモノローグと極端に閉じた世界で体が自由にならないもどかしさが痛い位に描写される。見てる途中のサッカーの試合のテレビがあったのに、医師に消されてしまっても文句の一つも言えないもどかしさ。自分の鼻のてっぺんにハエが止まってカサカサしているのに払うこともできないイライラ。生まれたての子供のように風呂にいれられ体をあらわれる屈辱。愛人と遊び、ELLEの編集長として誰もが羨む華やかな生活を送っていた描写からの落差がすさまじく、アルファベットのカードを使って瞬きで合図することで初めて他者に伝えた言葉が「死にたい」だった点はとても実感のこもった言葉である。自伝のタイトルにもなったその「潜水服を着ているような」外界から閉ざされたような状態から、蝶の夢を見ようとしたというのはなかなか詩的で素晴らしい表現だ。なかなか詩的な隠喩やユーモラスなことも書いているらしく、自伝も読んでみたいなーと思った。