パンチドランク・ラブ」を観る。

かなり面白かった。そして、怖い映画でもある。監督はポール・トーマス・アンダーソンで、主演はアダム・サンドラー。今回も変な役どころのフィリップ・シーモア・ホフマンが最高。タイトルのパンチドランク・ラブは一目ぼれのことを言うらしいが、冴えない男がある女性に恋をする話で、監督にしてはめずらしく群像劇ではなかったのも新鮮だった。
とにかく、冒頭からして怖い。だだっ広い倉庫にポツンと置かれたデスクで一人電話をかけるアダムサンドラーのショットから物語が始まるのだが、もうこの絵からしてシュールでどことなく居心地の悪い主人公の人間性が伝わってくる。そして休憩のためオフィスの外に出たところ、目の前で自動車事故が起こり、なぜか道の前に置かれたピアノをオフィスに持ち帰る。観客が恐らく抱くであろう、「なんか真面目で気弱そうだけど変な人だなぁ」という印象が、徐々に確信に変わっていく過程が面白い。自分で会社を経営していて(トイレのスッポンを売ってる)、一人暮らしをし、社会的な地位もあり、きちんとしたコミュニケーションも取れるのに、決定的に危うい。情緒不安定で、異様な自分ルールに固執し(飛行機のマイルが貯まるという理由で25セントのプリンを大量にオフィスに購入していたり、必要もないのになぜか毎日青いスーツを着て仕事をしていたり)、一度キレるとレストランの内装をボコボコに壊したり、姉の家の窓ガラスをたたき割ったり、何をしでかすか分からない。そしてまた、この不安感をあおるような演出が実にうまいのだ。どこかにいそうなんだけど、いたとしても絶対に関わりたくないようなそんな男を、物凄いリアリティで描き出している。
けど、やっぱり恋愛って一種のバグというか、そんな男ですら何となく愛おしく思えちゃうのが面白いところ。姉に紹介してもらった物静かな女性に一途に思いを寄せ、女性が海外に仕事で行ったらついていっちゃったり(GO!GO!L.Aを思い出す)、冷静になったらこんな男嫌でしょ、と思えなくもないのだが、真面目そうな女性の方もうまく波長があっちゃうのだ。セックス後の二人の会話とかが、二人とも変態じゃねぇか!とつっこみたくなる素晴らしいシーン。あと、恋愛と同時並行で主人公はあるヘマから恐喝を受けるんだが、その親玉を対峙するためにフィリップ・シーモア・ホフマンの家具店に乗り込むところとかもマジで見どころ。電話機を握りしめて大声でわめく主人公と、なぜか店内で女に髪をカットしてもらってるゆすり屋が激突するかと思ったら、あっさりゆすり屋が降参して終わるという。むちゃくちゃシュールな絵面で最高に面白い。ポール・トーマス・アンダーソン恐るべしだ。