アクト・オブ・キリング」を観る。

前評判通り、ザ・胸糞悪い映画だった。個人的にはインドネシアでこんな惨劇が起こっていたということすら知らなかったのだけど、赤狩り(文字通り、拷問して強姦して殺すという)自体が世界中でここまで大きな勢力を持っていたというのが恐ろしい。しかも、インドネシアではとばっちりで華僑や中国系の人々が殺され、今でも彼らの生活はヤクザにみかじめ料を払わないと成り立たないようだ。
本作で最も印象深いのが、映画撮影班のスタッフが自分の父親が殺された場面を話すシーン。アイデア提供のため、嬉々として話し始めるんだが、だんだん顔色が変わっていき、怒りと悲しみで何も言えなくなってしまう。この惨劇はついこないだ起きたばかりで、加害者も被害者(家族)も現在進行形で同じ共同体の中で生活しているのだ。自分の肉親を殺した相手が街中に住んでるとかいう状況がどんなにきついか分からないけど、こんな状況を当たり前として生きる人々がいるということを知ることができた。

一方、加害者は加害者で複雑な心境を持っている(本作の中には、まるで後悔の念に駆られずに選挙に立候補する過去の加害者のギャングとかもいるんだが)。孫もいて、悠々自適な暮らしを送りつつ、自分が殺してきた人たちの瞳が放つ負の感情が忘れられない者たち。劇中劇でことさらに自分が被害者役を演じ、自分が拷問にあっている姿を孫に執拗に見せようとする男。ちょっと変な例えかもしれないが、るろうに剣心の剣心や幽遊白書の戸愚呂弟を思い起こした。自分の過去の行いに罪の意識を持ち、今の自分を犠牲にしてでも償いを持とうとする。その行為自体はとても論理的に矛盾していても、共感できてしまう。ラストシーン、静かな夜の一幕で自分の殺戮を再現して見せる加害者の彼が印象的に映った。