「リトル・フォレスト(夏・秋)」を観る。

東北の集落でひとり、自給自足に近い生活を送る女性の日々を綴った物語。五十嵐大介の漫画が原作。
なんだけど、映画としてはほとんどまとまりはない。物語らしきものはあるが、どうも冬・春編で大きく動くらしく、本作ではその萌芽がみられるくらい。いかにも現代社会につかれた女性に、というマーケティングが濃厚に感じられる演出は鼻につくし(本作を面白いと思える人は、恐らく「思ひ出ぽろぽろ」も面白いと感じられるはずだ)、時折挟み込まれるCGによる演出も(原作がそうなのかもしれないけど)不自然に感じた。主演の橋本愛は凛として美しいのだが、その美しさゆえ田植えや薪割りが似合わない(ついでに、舞台が東北で周囲の人が皆それらしき訛りで話すのに、彼女だけ標準語なのも気になる)。汗や泥や衣服の汚れがほとんどないのだ。試行錯誤しながら自給自足を始めた一年生の女性、という設定なら納得感があるけど、その土地に生まれ、その土地で暮らしてきた人間の持つ澱のようなものが感じられなかった。周囲の人たちも優しいだけで醜悪で面倒な田舎の慣習が描かれないのも腑に落ちない感じが残る。
でも、見入った。作中で作られるパンやジャムや塩焼きにされる鮎といった様々な料理、静かな森や稲穂が金色に色づいていく様子、すべての風景が主役となって鮮やかに観客の印象に残す。欲を言えばアイガモ農法で使ったアイガモを絞めて解体するシーンで、屠畜するシーンが描かれれば、「癒し」を求めたいだけのぬるい観客にショックを与えることができたと思うんだけど。