「断片的なものの社会学」を読む。

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

社会学」とタイトルにあるが、学問的な体裁はとっていない。むしろ、本書内で述べられている通り、論文や研究からすり抜けてしまった断片的な事象、社会の様々な場所で生きる様々な人の取り留めもない日常を、無理やり理論や解釈に落とし込まずにそのまま提示したような趣がある。人によっては散漫な文章だと思うかもしれないし、「で、何が言いたいの?」と「わかりやすい答え」がないためにやきもきするかもしれない。本作で取り上げられるのは、ほとんど誰も読んでいないであろう風俗嬢のブログや、巨乳マニアのブログや、路上で歌う演歌歌手や、朝鮮学校の美術教師の作る土偶の話だったりする。著者は被差別部落や沖縄など、いわゆるマイノリティに属する人たちの語りを聞き取る社会学者である。だが、それを分析することを暴力と捉え、逡巡している社会学者である。彼は決してマイノリティに価値観を転倒させて称揚するようなことはしないし(black is beautifull的な)、持ち上げるようなこともしない。「差別を乗り越えるということは、ラベルについて「知らないふり」をすることではなく、「ラベルとともに生きる」ということなのだ」というフレーズ。その突き放し方が面白かった。
装丁が良かったのもポイント。特に、表紙や章ごとに差し込まれる何でもない街の一部を切り取った風景写真がとても味があって良い。特に目を引くようなものもなく、おぼろげで、暗くて、はっきりしない写真たち。正しく本書で語られる内容のようで印象に残った。