「あん」を観る。

これも飛行機の中で鑑賞。相変わらずというか、河荑直美作品っぽい世界。というより、原作を自分の作品に引き寄せてしまうということなんだろうか。社会の片隅で日の当たらない場所で不器用な人間たちが苦しみもがきながら、支えあって生きる姿を描く。主人公は人を傷つける罪を犯した過去を持つどら焼き屋の雇われ店長永瀬正敏、望まない形ではあるものの同じく社会から隔離されてきた過去を持つ樹木希林。彼らの周りには自堕落な母親(水野美紀)の元で進学すらままならない女子中学生の内田伽羅(なんと樹木希林の孫)、意地悪などら焼き店のオーナー浅田美代子樹木希林のお友達に市原悦子など、いずれも味のある、「その辺にいそうな生活臭溢れる」役者が作品世界を引き締める。
ベタかもしれないが、樹木希林が残した手紙にはちょっとうるっと来てしまった。不器用な人間同士というか、結局樹木と永瀬はお互いの重要な話を対面ではほとんでせず、手紙だけで済ませてしまってるんだよね。お互いに惹かれあい(性的な意味じゃなく)、生き方すら変えるほど大きく影響を与え続けた人間なのに、とても淡白なコミュニケーションしかない。この辺は大作ハリウッド的なコミュニケーションと真逆で、機微の表現を評価するカンヌ出品作という感じ。
懸命に生きながらも失敗や後悔ばかり、そこに更なる災難(どら焼き屋の強制的なリニューアル)を経ても、樹木希林の志を受け継いで挫けずに仕事する永瀬正敏のラストシーンは胸が救われる思いがした。