「ラーメン最新技術」を読む。

ラーメン最新技術?人気の素材選び、味の構成、技と工夫

ラーメン最新技術?人気の素材選び、味の構成、技と工夫

表紙はめちゃめちゃシンプルで、衒いもなく完全にプロ向けの一冊。広告は製麺所とか圧力鍋メーカーとかのみで、本当に有名店のラーメンの技術を写真付きで丁寧に解説する内容となっている。「切り歯24番」とか「ブリックス8」みたいな専門用語が何の解説もなしに登場してくるのでググりながら読んだけど、新しい視点でラーメン屋を見ることができる貴重な読書ができた。
一昔前は「ラーメンのスープは秘伝の味」みたいな考え方で門外不出なお店も多かったと思うけど、本作では有名店が惜しげもなく素材選びから調理法からあますことなく披露していて、単に自分の店だけ繁盛すればいいというだけでない、ラーメン界全体の技術の底上げを考えている感じがして好感度が高い。それは同時に、マンガ「ラーメン発見伝」のラーメンコンサルタントが言ってた「客はラーメンでなく『情報』を食いに来ている」というセリフに繋がるのかもしれないけど、それだけにとどまらない、「今を生きる料理人としてラーメンをアップデートしたい」、という思いなんかじゃないかなぁと思う。理屈で言えば、本作を元に道具と素材を揃えれば、素人でも有名店の味をまねることは出来る。でも、恐らく本作の写真や文章になっていない細かいニュアンスの調理法や、味のバランスや構成、原価感覚がなければとてもプロとして成功する美味い味を作りだすことは出来ないのだろう。ほとんど、スープと麺を使用した創作料理と言っていいのが現代のラーメンである。調理方法も王道はあっても、あえて逆の手順を取るやり方も多数あって、目指す味へのビジョンがあって初めて調理方法が意味を持つという当たり前のことをこの本は教えてくれる。実際、店主の声の中に、「なんとなく出来ちゃった美味い味では意味がない」というような格言もあって、職種は全く違うけど自分の仕事にも通じてその通り!とか思ってしまった。そして、ルーチンワークの意味を掘り下げて、かつトライアンドエラーを繰り返した先にそういう技術って蓄積されるんだよね。例えば、スープを取る時にゲンコツは一度下茹でし、血合を除いてから使うのが「王道」だけど、あえて動物臭さや濁りを残したい時に血合をそのまま使ってみる、みたいな調理法があり、実際に本書の中でも店によって真逆の処理をしていたりするのだ。そして彼らは恐らくどっちの手法も試した末に自分のラーメンの構築に合った調理法を取っていると思うのだ。勿論調理をする上での変数は無数にあり、上記のスープを取る時も「何時間炊くのか」「何度で炊くのか」「他の具材はどのタイミングでどの順番で入れていくのか」などによって無数の味の選択肢が生まれる。参入障壁が低く、熟練せずにプロになることも簡単なラーメン屋ではあるが、本書のような奥深い世界を今後も一消費者として楽しんでいきたいものだ。