「メロディがひらめくとき」を読む。

メロディがひらめくとき アーティスト16人に訊く作曲に必要なこと

メロディがひらめくとき アーティスト16人に訊く作曲に必要なこと

著者の本を読むのは「プライベート・スタジオ作曲術」に続き2冊目。本作も面白かった。創作の根源について現代のミュージシャンたちにぶっちゃけて聞いてしまう一冊。著者自身、リスナーとしての経験豊富なのは勿論、自身がプレイヤーなので楽理も分かるしコード理論も理解した上での質問なので、インタビュイー達も手加減なく話している感じがして良い雰囲気が伝わってくる。そして、機材は変わっても音楽を練り上げていく過程はとても人間的でそれぞれやり方があるし、面白いなと改めて感じるし、イメージする音を具現化できる集中力と根気と技術を持つ彼らを羨ましくも思う。本作では16人のアーティストを対象にしており、正直言って知った名前はTofubeats冨田ラボやCrystalやGalileo Galilei位しか知らなかったのだが、それでも楽しめる。彼らは属するレーベルや活動規模やキャリアも様々で、形態も一人の弾き語りメインからバンドやってる人まで多岐にわたる。さらに。幼い頃からしっかりした音楽教育を受けたものから、家庭が音楽一家だったり思春期になってコピーバンドを始めて、というような人まで様々で、最終的に現在作っている曲を聴いても全然カッコいいと思わない曲もたくさんあったのだが(一応ネットで聴けるような曲は調べて聴いてみた)、そんなことよりも彼らの作曲中の過程の話が逐一面白いのだ。特に、自分がhouseやtechnoやhiohopなど、ループミュージックをメインに聴いてる上での発想の違いとかの気づきが多い。彼らの中にもリズムボックスにギターやピアノを当ててフレーズを膨らましていく、というような人もいるのだけど、結構多くの人が「日常生活の中で浮かんだ断片のようなフレーズを携帯に録音しておく」という習慣を持っていて、ループミュージックではなかなか出来ない芸当だと思うのだ。サンプリングする場合でもソフトシーケンサーを使う場合でも、ほとんど「楽器を前にして」作曲が始まると思うし、ご飯食べながらとか散歩しながら作曲が始まるケースってあまりないと思うんだよね。そういう点だけでも興味深いし、そのあとギター一本で曲を練り上げていく人もいれば、オーソドックスなベース、ドラム、ギターを抜き差ししていって、という人もいる。肝心のメロディも歌詞と同時に浮かぶ人がいれば、メロディに後付けで言葉を載せていく人もいる。また、曲を吐き出さないと苦しい人から、普通のサラリーマンと同じく食ってくために曲を作るだけで別に作りたいとは思わない人から、曲が自分を媒介にして世に出ていく、という感覚を持つ人までこれまた様々。だけど、社会不平を正したいとか、不幸な境遇から成り上がりたかった、みたいなカウンター的な作り手がいなかったことは不思議に思った。取り上げられていないだけで、勿論いることはいるんだが。
以前、ブラックミュージックが好きでむちゃくちゃ詳しい人が、「何がシンガーソングライターだよ、ただのアイドルだろ」と誰を指しているか分からないがアイドルやシンガーソングライターを馬鹿にしているのを聞いてすごく不愉快に思ったけど、本書を読んでやはり間違っていなかったと思う。音楽を作る理由なんて人それぞれだし、作る人と聞く人が曲を通じて幸せならそれ以上良い関係なんてないのだ。外野は黙ってろ。