「前科おじさん」を読む。

著者が経営していたacid panda cafeは大岡山にあった時代から客として行っていた思い出深い店であり、直接面識はなかったが知人を通して以前からLEOPALDONとしての活動も一方的に知ってはいた。そして近年のfunkot普及活動もメディアを通して聴いていて、そんな矢先に事件を起こしていたこともニュースで知った。その間、彼のファンだったかというと全然そんなこともないのだが、結構個人的にはずっと知っていた感覚だったのでこの単著も読んでみた。内容は、大麻でパクられた著者が留置場で過ごした22日間と、保護観察中に始めたマッサージ師としての仕事とその後音楽活動を再開するまでの話をまとめたもの。正直言って、内容が重複してしまっている部分が多く体裁としてあまり整った本ではないけど、飾らない著者の人柄が感じられて楽しく読めた。花輪和一の「刑務所の中」を薄味にしたような感じだろうか。acid panda cafeの濃ゆい日常を集めた写真なんかも収められており、行ったことのある人ならより楽しめるかも。
正直言って、勝手なイメージでもっと硬派な人なんだと思っていたのだが、全体を通して伝わるひょうきんな筆致に驚いた。本書の冒頭からして自己紹介として学生時代いかにもてなかったか、イケイケの奴らに憎悪を抱いていたかみたいな童貞臭ぷんぷんのかっこ悪さをさらけ出してたりする。だけど、格子の中の生活で詐欺師やヤクザの親分やベトナムからの留学生などの濃ゆい面子の中でやっていけたのは、自分に「おもしろおじさん」としての力があったからだろうと分析しており、人を楽しませる、場をもたせることに長けた人なんだろうなぁと思った。堅気の世界に戻ろうと始めたマッサージ屋で年配の人と接しているうちに、彼らのストレス発散である演歌のカラオケが有名曲しかないことに気づき、「自分でオリジナルの演歌の曲を作って提供するのって受けないかな?その人だけの曲になるし」なんて発想をしていたり、色々アイデアマンとして冴えているのだ。
また、本書の読みどころは留置場の飯事情で、曰く「クソまずい」らしい。ただ、そのまずさにわずか数日で慣れていくから人間の適応力ってすごいなと感じたのこと。花輪和一の「刑務所の中」だとある程度飯も美味そうに見えたけど、色々場所によって変わるのかしら。ホリエモンもそういえば美味いとこと不味いとこがあるとか言ってた気がする。
あと、先日読んだ「バーナード譲曰く」で、ド譲が「恐らく人生で最も読書がはかどりそうな時」として「獄中」を挙げていてクソ笑ったのだが、やはり著者もそうだったらしく(読んだ本の記録も本書にあり)ド譲は間違ってない!と言いたくなった。