フォックスキャッチャー」を観る。

宇田丸氏が高評価をつけていたので気になっていて観た。期待値からするとちょっと微妙だった。1996年に実際に起こった大富豪がオリンピックの金メダリストを殺害するという事件をベースにした物語。本作の主人公の一人でもある、マーク・シュルツの自伝をかなり下敷きにしてるらしいが、本人も絶賛はしずらいというか、結構脚色が多いらしい。チャニング・テイタムは相変わらず素晴らしい肉体をしているが、レスリングのメダリストなのにまともな食事もできないほど先が見えない貧困に沈む鬱屈な若者を好演している。そして何より、スティーブ・カレルが不穏で不気味で何を考えてるのか掴みづらい、でも確実にヤバい奴ということが伝わる大富豪をかなり印象的に演じている。
前情報が「殺人事件が起きる」という状態で観ると、どのタイミングでどんな経緯で起こるんだろう?というのが鑑賞者のポイントになると思うが、自分の場合は「宇田丸氏が高評価をつけていた」しかなかったので、不穏な雰囲気が高まっていく中でどこがドラマの焦点になるんだろうと全く先が読めない状態で楽しむことが出来た。それにしてもあまりにも唐突で、結局なぜ事件が起こったのか、なんて全く窺い知れないような状態ではあったのだけど。
とにかくスティーブ・カレルの佇まいが面白くて、目はうつろでほとんど表情がなくか細い声をしていて、歩き方も宙を浮いているようなそろそろとした歩き方をする。そこにいるはずなのに存在感が薄いというか、アメリカ映画ではあまりない悪役の一種なんじゃないかと思う。一応言ってることはまともに聞こえるしそれなりに社交界での立場もありそうなんだけど、孤独で猜疑心が強く、唯一の肉親である母親にやけに固執したり、自分の邸宅に装甲車を配置したり、熱烈な愛国者だったりする。そして、ホントにキツネ狩りにでも行くような身軽さでサクッと何年も共に過ごしたビジネスパートナーを殺害してしまう。本人は統合失調症と診断されたみたいだけど、富と権力があるとそういうことも周囲から言われることがないだろうし、可愛そうな人間でもあったのかも知れない。