「経営戦略全史」を読む。

面白かった。著者はボストンコンサルやらアクセンチュアを経由してきたコンサルの人で、ビジネス書大賞2014経営書部門・大賞受賞したというもの。コンサルの人達が思考のフレームワークとして使うような理論とかMBAで教わる様なことって何なんだろうと思って読んでみた。約100年の経営戦略の推移を主要な学者や経営者たちの仕事ぶりを体系的に時系列で紹介していくという内容。味気ない論文と違い、注釈や章ごとのコラムなどが読み物として面白く、特に著者が設定した、実在の理論家による架空の対談とかもなかなか高度な知的遊戯として楽しめる。
冒頭から要約されてるんだけど、経営戦略の歴史としては「60年代に始まったポジショニング派が80年代までは圧倒的で、それ以降はケイパビリティ(組織・ヒト・プロセスなど)派が優勢」という。また詳細やリマインドしておきたいことを箇条書きでメモしておく。
・テイラーによる科学的管理法。怠惰と不信、恐怖が支配する19世紀の工場に科学的管理法を導入。
・フォードの効率的な大量生産システムは従業員に高給を支払うことに成功したが、全ての作業を極限まで分解して(一日に7000回タイヤをフレームにはめるだけ人とか)効率化した結果精神的苦痛から逃れることが出来なかった。
・心理学者マズローの欲求階層説にあてはめて、上記は自然なことであると説明。
・メイヨーの人間関係論。作業生産性はテイラー的な作業環境の良し悪しより、作業者の士気にもっとも左右される。
・日本でも有名なドラッカーは、GMを分析し、事業部制や分権経営などで権限移譲や自己管理の必要性を訴えた。
・チャンドラー「事業戦略と組織戦略は深く関わり、「事業→組織」も「組織→事業」もある」「組織は変えにくいので事業戦略が先導しがち」
・アンドルーズ「SWOT分析を考案するも、企業戦略は機械的には決まらない、パターン化や定型化が出来ない「アート」である」
コトラー「プロダクト・ライフサイクル戦略を考案。時流に沿って商品を開発する必要がある」
・ゼーコン「事業に自信があるなら借金を増やせ!自己資本率を挙げることだけを考えるな」
・ポーター「儲けられる市場を選んで、かつ競合に対して儲かる位置取りをしていないと、どんなに努力していてもムダ」ポジショニング派の権化。ケイパビリティは手段でしかない。戦略とはある価値のためにある価値を諦めることだ。
・クラウセヴィッツ「ナポレオンが連戦連勝出来たのは、勝てるところでしか戦わなかったからである」ランチェスターモスターもポジショニングを重視。孫子はケイパビリティやそもそも戦わないことを重視。
トヨタ式経営「在庫は悪。各工程のムダを覆い隠してしまうのでなくす」
ゼロックス「競合相手の商品のリバースエンジニアリングを実施。他業種のベストプラクティスを学ぶことで、奪われていた市場シェアを奪い返した」
イノベーションについて。はさみ跳び、ベリーロールが苦手だった選手が皆に嘲笑される中で何年も背面飛びの練習をして金メダルを取得した。
キャプランノートン「バランスト・スコアカードを提唱。短期の株価上昇のため、経営者がROEROA、PERといった財務諸表を重視し過ぎる風潮を改善」
フリードマン「ユーロを危惧。通貨の一体化は為替の固定相場制と同じ。弱い国は裏付けのない信用を得て金をつかいまくる」ブレグジットが実現しそうな今年は特に気になる。
・産業バリューチェーンの考え。21世紀となると、産業や業界、競合すら曖昧になりつつある。サプライチェーンの導入。
・東海バネ工業。オーダーメイドのバネをネット販売したら、凄まじい数のアクセスが殺到して新規顧客を発掘。当時、オーダーメイドのバネなんて誰も売っていなかった。
ムハマド・ユヌスグラミン銀行。借り手の返済能力を担保でなく仲間からの信頼で図り、高い返済率で小口の融資に成功。
・「シャプレーは、男女の結婚を巡る問題を「数学の問題」と設定して、男女間の安定的なマッチングを探すアルゴリズムを発見した。」
・ポーターは「個人ごとにカスタマイズされた教育を提供せよ」と主張。知性タイプは多様なので、ITの力で自在なプログラムを提供するように考案。アメリカのサンマル・カーンが実践中。