「文化系のためのヒップホップ入門」を読む。

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

どの辺が文化系のためなんかよくわからんかったけど、アメリカのサウスプロンクスでブロックパーティが開かれ云々みたいなところから、最近のdrakeやらofwgktaらの活動まで語り尽くすという内容。基本的にUS国内だけで、日本はじめ他の国へのシーンの波及とかは言及なし。100枚のディスク紹介も参考になるし、なかなかためになった。
本書で大和田俊之氏が述べているように、ロック始め西洋のアートフォームは作者個人の悩みや魂の叫びを作品に落とし込む、という形式が一般的であったのに対し、ヒップホップはあくまで自分が聴いてきた音楽や周囲の人間に受けるものを作品に落とし込むという違いが、恐らく自分の興味をヒップホップに向けさせた、というのは共感できる。
他者の音源を切り貼りするサンプリングという技法も、西洋的形式だとパクリになってしまうけど、ヒップホップ的な感覚でいうと、一度シーンに認知された音は既に「みんなのもの」になっており。そこを参照して新しいものを創りだすことを厭わないし、なにより既に下地があるから皆にウケやすい。
他に興味深かったのは、ヒップホップという現象を音楽だけでなくゲームとして捉えた視点。これは、肌感覚ではなんとなくわかっていたけど改めて言葉にされて腑に落ちた感がある。NWA始めとする西海岸のギャングスタラップ始め不良文化がそれまでのブロックパーティ文化やpubric enemy的な政治色の強いヒップホップにミックスされていく中で、(commmonの「I Used To Love H_E_R」はそうなる前のヒップホップ文化を女の子に例えて、聡明な君を昔は好きだった、っていう曲らしい。それに対するICE CUBEの「ヤツは前からビッチだったぜ」っていうアンサーも粋でうまい。)一種のプロレス感が出てくる。もちろんシーンにはシュグナイトやらEASY Eやらガチで怖い人も絡んでるんだろうけど、ICE CUBE始め、「ワルさ」を如何に巧みにストーリーテリングやライムを駆使してラップできるか、という大喜利大会のような感じがあるという。Snoop Doggがあんだけ綺麗なねーちゃんと遊んでそうでも、実は高校時代のガールフレンドと結婚してるとかいうエピソードもほのぼのしてていい。この、「悪そうで実はいい人」感が非常にプロレスっぽいのだ。そこに、郊外の白人キッズたちが「かっけー!」と食いついたことでヒップホップがアメリカ全土で売れていくというのもマッチョ志向なアメリカ感を感じて面白い。
他にも、ヒップホップを日本の「お笑い」や「少年ジャンプ」に例えて語るくだりもあり、楽しめた。

本書で絶賛されてたDr.DREのchronicから好きな一曲を。