シュガー・ラッシュ」を観る。

周囲の友人に勧められて観てみたけど、面白かった。やはり、ディズニーというべきなのか、完成度が半端じゃない。あまりに隙のない作りに粗探しをしたくなるくらいだ。とあるゲームセンターが舞台で、営業時間以外はアーケードゲームのキャラ達が自由に本来のゲームの役割から外れることができる社会で、ヒーローになれない悪役の主人公がヒーローになろうと奮起する物語。有名なゲームキャラが端役だけどたくさん出てきてそれも面白いし(個人的にはバーで飲んでるスト2リュウが何か面白かった)、そういうキャラを知らないちびっ子やお年寄りが見ても面白いと思う。洋の西洋問わず楽しめるだろうし、ホント恐ろしい。あと、日本人的にはAKB48が主題歌を歌ってたりするのも話題性あっていいんだろうし。俺には正直どうでもいいけど、急にエンディングで日本語が流れてきたからびっくりした。

結末はもちろん予想通りだ。悪役として忌み嫌われ、孤独だった主人公は策略をめぐらすボスを倒して女の子を救い、それでもこれまで通り悪役として生きていくんだけど、それからはゲームの中では信頼できる仲間たちが出来て、孤独を抜け出し、自分が役割を担うゲームもレトロゲームとして人気が出てめでたしめでたし。なんだけど、そこにいたるまでの物語の練り上げ方、伏線の張り方と回収の仕方が凄まじく丁寧なので、見ていてワクワクできる、素晴らしいエンターテイメントになっているのだ。
カーアクションで熱くなる場面あり、友情物語であり、恋愛物語であり、そして意外なラスボスの正体・ヒロインの正体というサスペンス性もあり、そして主人公ラルフのホロリとさせる成長物語でもある。これをたかだか90分くらいに収めてるのがすごい。これは、キャラの設定を考えてからその動き方に任せて広げていくというストーリーテリングではなくて、あらかじめこういう動き・設定のキャラがいたらこういう場面を用意してやればうまく活用できる、というような、「勝ち方を決めてからルールを決める」ゲームのような作り方をしてるんだと思う。福本伸行がかの限定ジャンケンを考案する際などに思考の原点になっているという、「必勝法を考えてからギャンブルのルールをつくる」に近い発想だと思う。
例えば主人公は悪役として、ゲームの中では「壊す」能力を持っており、ヒーロー役はそれを「直す」能力を持っている。これが物語中で重要な働きを果たす、というより、この設定を元に物語が構築されているんじゃないかと思う。本作の原題は、「Wreck-it-Ralph」(ラルフ、壊せ!みたいな意味か?)というそうなんだが、物語で一番の決めの場面、ヒーローになりたくて周囲に不和や衝突を招いたラルフが、自分の身を犠牲にしてヒロインのヴァネロペを救うためにゲームの世界を崩壊させるために言うセリフがこれだったりする。さらに、ヒーロー役のフェリックスの「直す」力によってヒロインは自分の真の姿を取り戻し、(ゲームの)世界を復活させるのだ。これらの対になった設定から物語が広がっているのは言うまでもないと思う。もちろんそれにとどまらず「壊す」能力でヒロインの大事なマシンを(理由あって)壊したり、自分のゲームが出来て30周年のお祝いの席での人間関係を壊すメタファーになっていたり、または「直す」能力が同じく人間関係を直すメタファーになっていたり、その能力を使って、囚われの牢屋の鉄格子に触れてみたら鉄格子が逆に太くなってしまったりというギャグをやってみたり、設定を余すことなく活用している。ヒロインが住む暗い洞窟が実はゲームの世界を壊せる根幹の力を持っていたり、ラスボスが前半で語られていたキャラだったり、それらの伏線をを嫌味なく、ちびっこでもわかるような平易な映像言語で回収されているのが秀逸。個人的にはラプンツェルより面白かった。この世界観を実際にアニメーションの映像に落とし込める人は稀かもしれないけど、このくらい緻密な物語世界をいろいろなジャンルの物語クリエーターたちは参考にしてみていいと思う。