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ヘッドライト [DVD]

これは傑作。原題は「しがない人々」という意味らしいが、言い得て妙だ。人生のどのタイミングにも脚光を当てられることなく貧困の中で生まれ働き死んでいく人々のリアルな生活を描いている。その苦しい生活の中でお互いに惹かれ、思いやり、悲劇的な結末を遂げた不倫がとても切ない。
ジャン・ギャバンの不器用で無骨でそれでいて優しい哀愁溢れる中年男や、フランソワーズ・アルヌールのこれまた不器用で優しい、それでいて影のある美しさが強い印象を残す。この二人の周りも漏れなく辛い境遇のなかで懸命に生きる人々で、それぞれ全く悪気のない行動で時に衝突し、慰め合い、助け合う。生活に追われる妻、貧困から抜け出そうとスターになる夢を持つ跳ねっ返り娘、うらぶれた居酒屋を経営する男、何とか小さい運送会社を経営しようと奮闘する上司、連れ込み宿の女主人、娘を支えることより新しい夫との生活を優先する母など、どれもこれもそのへんにいそうな生活臭溢れた人間たちでとてもリアルだ。
妊娠したことにより相手を戸惑わせないため黙って中絶し、その傷が元で死に至る女。「妊娠したの、気のせいだったみたい」で済ませてしまう優しさと切なさがやるせない。ほとんど溝口健二が描く女の世界だ。