ラスト、コーション」を観る。

ラスト、コーション [DVD]

ラスト、コーション [DVD]

158分と割と長尺だけど、退屈することなく観れるし期待以上に面白かった。原題はlust,caution。性欲と警告という意味にあたるのだろうが、なるほどという映画。監督のアン・リーブロークバック・マウンテンが好きで気になっていたのだが(てっきりアン・リー監督は女性なんだと思ってたけど、男性だと知る)、本作もあのヒリヒリした切羽詰まったやるせない愛憎劇となっている。トニー・レオンタン・ウェイ主演で、二人とも、特にタン・ウェイは演技が初とは思えないほどいい仕事をしている。1940年代、太平洋戦争が終わりに近づく頃の中国を舞台に、田舎から上海に出てきてちょっとイケメンな男子に誘われるまま抗日運動に参加しスパイとなった女と、日本の傀儡政権の重役である(要するに中国人には売国奴と嫌われてる)男による息も詰まるような駆け引きと肉体のぶつけ合い物語。タイトル通り、笑えるくらい性描写がきついのでR18指定。
見どころはもちろんあらゆるアクロバティックな体位を駆使した激しいセックスシーン(汗も毛も混ざり合うし起った乳首も見れるリアルさ)や、当時の中国の風俗を丁寧に再現したと思わしき細かいディテールにもあるのだけど、主演二人の絶妙な表情による演技を推したい。物語のクライマックスシーンの前、二人は芸者がいるような日本の料亭みたいなところで逢う。二人とも本音を隠しつつ、それでもお互いに惹かれあい、寄り添っていたところに、「私の方が(芸者より)うまく歌えるわ」と不意に「歌」の歌詞に仮託して二人の近くて通い距離を敷衍する場面が秀逸。一方の女はぎこちない笑顔で歌い、一方の男はタバコを吸いながらだんまりと歌を聴いている。二人とも大それてお互いの状況を慰めもしないし、笑いもしないし余計なことは言わない。歌い終わった後にお互いの手を無言で取り合い、男が隠すような仕草で一筋の涙を流す。それだけで二人の関係を絶妙に表現できていて、とてもいい場面だと思う。ちなみにこの歌もタン・ウェイ自身が歌っているそうだが、いわゆる中国の歌い方という感じの高く透き通った声での歌い方で、吹き替えたんじゃないかと思う位うまいのポイント。いやーこの女優さんすさまじい。ブロークバック・マウンテンを観て面白いと思った人には文句なく勧められる素晴らしい映画。