「教団X」を読む。

御多分にもれず、アメトークの「読書芸人」で知ったのがきっかけ。600ページ近くあって結構な大著だし、宗教や哲学など重たいテーマを扱うので読む人を選ぶ作品らしいというくらいの前情報で読んでみた。結果としては、つまらなくはないけどちょっと期待外れ。というか、消化不良。交際していた女性が蒸発し、つまらない日常を送っていた男が女性を追ってある宗教団体に出入りしたことがきっかけで、日本を揺るがしかねないカルト宗教に巻き込まれていく、というお話。重い話だけど、文体は極めて軽く、登場人物の視点もめまぐるしく変わりながら短いセンテンスの羅列が続くので割とサクサク読める。
巻末で著者が述べてる通り、マクロな話とミクロな話を同時に詰め込み、自分の集大成とした試みは意欲的だと思うのだが、いかんせん消化不良気味。序盤の仏教やキリスト教の教えと現代の素粒子や量子学とかを結びつけて説法を行う描写とか読んでたら、「うわ、こりゃ相当調べて書いてんなー、濃厚な話が期待できそうだ」と思ったけど、この説法自体は面白いんだけど全体の物語に対して結局あまり意味をなさないというか機能しない。登場人物たちは彼の話に心酔していたはずなのに、考えることはほとんど目の前の異性とセックスしたい、とかそんなレベルで、ほとんど性欲を動力源として物語が展開される。幼い頃に貧しくて苦労した自分の経験からアフリカの小国にODAとして参加して現地の過激派に捕まって洗脳されるくだりとか、日本国を相手に右左の論客問わずに第2次世界大戦の政策をぶった切ったりとか、一つ一つの話を切りだしてくと面白いんだけど、全体の話は結局好きな相手もセックスがしたい、に終始するのでそういう描写が浮いてしまうのだ。性描写がきついという評があるみたいだけど、きついというより不必要に長い感じ。名前もない端役の女の満たされない日常がセックス教団に入って解消された、みたいな自分語りが多く、読んでてちょっとげんなりする。
あと、個人的にはセックスしかしてない教団が都内にマンションを借り切って警察にも知られず運営なんか出来るはずもなく、セックス描写に力を入れるくらいならもっと宗教団体としての金回りがどうなってるのかとか、どんな教義を持ってどんな信仰をしているのかとかいった日常の描写に割いた方が良いんじゃないかと思った。あと、今時人を拉致するのに後ろから薬品を染み込ませた布を嗅がせる、なんて時代がかった描写も辞めた方がいいと思った。あんな非科学的な描写観ただけで萎える。