「ヤバい社会学」を読む。

年末から続けて、やっと実家で読み終わった。インド系のヒッピーかぶれのスディール・ヴェンカテッシュが、シカゴの黒人ギャングの生活に密着し、独特の政治や経済について述べたルポ。ざっくり言うと、JTというシカゴのプロジェクト(団地)を取り仕切るギャングリーダーやその周辺のコミュニティの人の証言を基に、都市の貧困生活者の実体について対象者に交じりこんで得たデータとインタビュー調査を基にまとめ上げたもの。時系列順に話が進まないのでちょっとわかりづらいけど、本書では1980年代の終わりくらいから1995年位が主に描かれる。んで、その後も本書のインタビューイーをインタビューし、生活ぶりを丹念に追っているらしい。
ざっくり読んでみた感想としては、アウトローは国境を超えるんだなという認識。本書で描かれるシカゴのギャング(ブラックキングス)は、市民から税金を取り立てて、ドラッグの密売で生計を立てているけど、警察や司法のサービスが届かない領域に手を出し(何しろ、警察や救急車は必要に応じて呼んでも来ないし、悪徳警官なんかは住民を虐待してたりする)、治安を維持している。売春婦を暴力的な客から守ったり、商店のケツ持ちをやったり、ギャングのメンバーには高校に行かせたりしている。そして、ギャングと地域の民生委員的な組織がお互いの非合法な手法を無視して協力しあってコミュニティを守っているという。国家というのはその領土の中で一番勢力の強いヤクザ、なんて読んだこともあったけど、多かれ少なかれ、世界中のアウトローも似たようなもんだろうなと思う。
後、研究者としてのスディールの葛藤は面白かった。「調査対象者があからさまな犯罪計画を立てていた時、社会学者はどうするべきか」とか、「コミュニティの住人たちの収入などの調査結果を協力者(JT)に話したところ、ガッツリ徴収されて住民からそっぽを向かれた」みたいなところ。協力を得ないと情報収集自体がままならないが、協力者に見返りを提供するとまたしても情報収集が難しくなる、という。そして、低所得の人達を助けたいという純粋な思いで調査に当たっても、当の本人たちから忌み嫌われ、お前の助けなんか求めてない、と言われてしまう事実。恩返しのために即席で作文教室をやってみたなんていう試みも面白い。調査対象が人間だと、中立な立場なんて取りようがないというね。でも、それだからこそギャングの財務担当と親しくなり、財務状況の分析なんて貴重なデータを取得出来てもいるし、ギャングリーダーを一日だけ務めてみるなんて体験もできたと。