「泰平ヨンの未来学会議」を読む。

面白かった。結構ふざけつつも、テロの恐怖や人口爆発、脳移植や人体冷凍処置による未来への先送り、幻覚剤による現実逃避など、あり得る人類の姿をシニカルに描いていて笑える。なんと映画化もされているらしく、そちらは未見だがぜひ見てみたいと思った。序盤は正直この泰平ヨンシリーズを読んでる人じゃないととっつきづらいんじゃないかと思うが、幻想世界にダイブしてからの展開は報復絶倒、幻覚から幻覚への多段構成など、ヨンが今どの状況にいるのかが目まぐるしく入れ替わるマトリックス観まで感じられる愉快な話で最後まで楽しめた。
特に、冷凍から蘇生されてから(解凍者と呼ばれる)の日記が面白く、ファッションで手足を付けたしたり、映像を絶えず映し続けたり色やデザインが随時変化する服とか、スプレーで体に吹き付ける服とか、ファッション業界の人が読んだらどう思うんだろうなと思ったり。美人コンテストが主催されると翌月にはその優勝者の人体のパーツを全て手に入れられる。人種を変えることもワケない。人は死んでもすぐに再生可能なので殺人の罪状が極めて軽くなり、天気も国民投票でコントロールし、予想外の雨に見舞われることもない。知識は本でなく主に食事で摂取し、テレビは3Dで実態化する「還視」で楽しみ、、寝ている時に観る夢は夢の配給会社から送られる楽しい夢のみを見る。そしてこれらの生活は全てロボットたちの管理によって実現しており、ロボットも人格を持ち、中には「ヤクザボット」となって反社会的な活動をする中、ヴァチカンがロボットの聖餐を拒否していることへの反対運動を行う神父がいたりする、そんな社会。
未来会議で意見交換されていた、日本人のハヤカワという人物による成層圏にまで届くビルを作り、人間の生活に必要なあらゆる要素・資源をリサイクルしながら内部だけで生活する案とか、アメリカが提唱する、結婚や出産を許可制にしてセックス自体も回数券制にしたりして人口爆発を抑制する案とかも、怖いけど笑えた。
あと、色んな造語の訳が本作のポップな文体にしており、レビューで見た「ドラえもんの秘密道具っぽい」というのがぴったりの言語センスが最高だった。例えば快楽薬を「ユメゴゴチン」「パラダイシン」「ノンビリゼリー」と可愛い名前で言ったりね。