「MARCH 1 非暴力の闘い」を読む。

訳者が押野素子氏だったので読んでみた。公民権運動で活躍した国会議員ジョン・ルイス氏の自伝を漫画でまとめたもの。2009年のオバマ大統領当選から物語が始まり、幼少期から過去を思い起こすという内容となっている。描かれるのはたかだか50年ちょっと前の世界なのに、戦慄するほど酷いアメリカの状況に驚いた。
特に誤解していたのが、エメット・ティル事件。こんな悲惨な事件100年位前の話なんだろうと思っていたが、なんと1955年に起きていたと知って戦慄した。マンガという視覚表現に優れたメディアを選択したこともあって、アラバマ州の片田舎で育ったジョン・ルイス少年のリアルな体験話として脳内再現度高く読める。公民権運動に身を投じてからの「非暴力を貫くための練習」の場面とかは特に印象に残り、仲間同士でお互いにありとあらゆる罵倒や暴力を振るって堪えるというものは想像を絶する辛さだったろうなと思う。ランチ・カウンターでの座り込みも知らなかったけど、食事する場所ですら遠慮しながら生きていかなければならないという「前提」となってしまったルールを壊すための活動と知って驚いた。ジョン・ルイス氏の両親からのアドバイスも「白人の邪魔をするな」であり、常に遠慮することこそが生きる知恵として機能してしまう社会の歪み。例えば、スパイク・リー監督って創作物のほとんどが「自らが黒人であること」がエネルギーとなっており、そこばっかり意識しなきゃいけないなんてアーティストとしてもったいないなとか思っていたんだけど、この「遠慮しながら生きなければならない」がアイデンティティに深く根付いているとそうなるのも無理ないかなと思い返した。
全3巻でまだ1冊目なので、続きも読みたい。