この世界の片隅に」を読む。

映画が記録的にヒットした本作。「夕凪の街 桜の国」は読んでいたけど、本作は未読で今回大分遅ればせながら読んだ。前評判通り素晴らしい作品。太平洋戦争中の広島を舞台に、県絵を描くことが好きな優しいすずという女性の少女時代から結婚して女性として成長していく様を描く。
同じ戦争物でも「はだしのゲン」みたいなどぎつい表現はなく、細やかで優しいタッチの絵柄を活かし、時系列に沿って淡々とした日常を丁寧に描き出していく。少しずつ生活が苦しくなり、食料が減り、配給をやりくりして家族や近所同士で助け合う姿。資料性がとても高く、当時の建物から生活風俗を細かく調査・取材した結果がいかんなく発揮されており、ある意味森薫の「乙嫁語り」のようだ。そして登場人物たちが皆総じて優しく、すずを懸命にサポートする両親よ義理の両親、昔は意地悪だった初恋の男性と自分の旦那との間で揺れ動く様や、学がなく色町に生きながら人知れず死んでいく友人、原爆症の症状が出始める妹など、めちゃくちゃ切ない気分になる。すずのような市井の人々の生活は記録には残らないものの、出会った人や経験したことなどの「記憶の器」として世界に在り続けるとすず自身が理解し口にしたセリフがかなり印象に残った。